多様な豊かさとウェルビーイング(※)を実現する社会のあり方を考える地域共創プログラム「日野市妄想実現課(以下、「妄想実現課」)」がスタートしました。定員を超えるたくさんの方から応募があった本プログラム。高校生から29歳までという若いメンバーたちがつながり、デザイン思考を学びながら、誰もが自分らしくいられる地域コミュニティのためのプロジェクトやアクションの創出を目指します。10月29日(火)に日野市多摩平の森産業連携センター「PlanT」にて、第1回目の顔合わせとオリエンテーションが行われました。
※ウェルビーイング…心身ともに健康であり、社会的にも経済的にも満たされた状態であること
個人的な想いやアイデアを共有し語り合える場をつくる
オリエンテーション当日に集まったのは、妄想実現課の研修生となった23名のメンバーと、研修プログラムに伴走する8名のメンターたち。まずは妄想実現課課長補佐の森脇と酒井から、地域共創プログラムとして架空の課が誕生した背景について改めて説明がありました。
日野市では、地域のことを“自分ごと”として捉え、よりよい未来のために動いていく仲間を増やすべく、2023年に「日野地域未来ビジョン2030」を策定し、2030年の理想の日野に向けて一人ひとりができることを考えるワークショップを開催してきました。またアイデアや意見を共有できる「日野市地域共創プラットフォーム」を立ち上げ、アイデアをアクションにつなげることを目指しています。

こうした取り組みを通じて少しずつ市民の声を集めてきた日野市ですが、そこで見えてきた課題は「個人が秘める考えや想いを人に伝えるのは、思ったよりもハードルが高い」ということでした。やりたいことがあっても実現性を考え発言を控えてしまったり、個人のアイデアくらいでは何も変わらないと思ってしまったり、自分の考えが正しいかどうかを気にしてしまうなど、その理由はさまざまです。妄想実現課ではまず「妄想=一人ひとりが抱く個人的な想いやアイデア」を発散し、デザイン思考を学びながら多様な視点で課題を見つけ、妄想の実現につながるような「問い」を形にしていきます。日常の暮らしやコミュニティの中で親しい人にもなかなか話すことがないような妄想を、安心して共有し合える場として、日野市妄想実現課がスタートしました。
デザイン思考で導き出す求心力のある「問い」
アイスブレイクの時間は、同じテーブルについた3人でペアになり、最近あった「幸せを実感したエピソード」を紹介し合いました。「幸せ」というキーワードで日々を振り返ることは、自分にとってのウェルビーイングの発見につながります。エピソード紹介の時間は1人3分。初対面の相手を前に伝わりやすいように言葉を尽くし、想像力を働かせながら相手の話を聞き、質問を返すなど、限られた時間の中でたくさんの言葉が交わされ、会場の空気が一気に動き出し混ざり合った時間となりました。



そしていよいよ酒井から妄想実現課の研修プログラムについての説明です。「市民一人ひとりが、それぞれの多様性を認め合い、繋がりを持ちながら、互いのウェルビーイングを実現しあう」ことを目指す日野市妄想実現課。「ウェルビーイング」とは何なのか、目指すゴールにたどり着くにはどうしたらいいのかなど、研修プログラムで紐解いていく道筋の大枠が共有されました。
そもそもウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態であり、その状態が持続的であることが特徴です。そして良好な状態は人によって異なります。さまざまな領域で活躍するたくさんの人にウェルビーイングの取材を続けてきた酒井は、「より良く生きるための、その人なりの幸せの物差し」という言葉でウェルビーイングを表現しました。

SDGsでは「持続可能な社会」という大きなゴールに向かうため、課題を細分化しそれぞれの領域から小さな目標に向けた取り組みが、世界中で行われています。「多様なウェルビーイングの実現」という漠然としたゴールを目指す妄想実現課でも、その達成に向けて大きな歯車を回すため、まずは研修生たちが自分ごととして捉えられる小さな歯車を回していきます。小さな歯車は、個人がコミットできる具体的なアクションです。それぞれが自分の物差しで小さな歯車を回すことで、最終的に行政のビジョンのような大きな歯車を動かしていくことにもつながります。だからこそ妄想実現課では、一人ひとりの幸せの物差しを尊重し、大切にしながらゴールへと向かいます。
また大きな歯車と小さな歯車を接続するもう一つの歯車として、中間の歯車の存在がありました。自身の成長や多様な仲間との出会い、社会への貢献など、小さな歯車を回す意義(内発的駆動目的)を見出すことでアクションが活発化し、大きな歯車の動きに波及していきます。妄想実現課では12月までの3回のワークショップを通し、中間の歯車である内発的駆動目的として、それぞれのワクワクが高まる求心力のある「問い」をデザインします。

マイナスの感情をプラスにする課題解決を
研修プログラムでは、まずは自分のプラスの感情に目を向け、その次に暮らしの中の違和感について考えます。そしてその違和感に基づくマイナスの感情をプラスに転じるための、解きたくなる問い、アイデアを生み出す原動力になる問いをデザインします。視点を固定化せず、今ある枠組みを外してさまざまな角度から問いを考えてみることが、課題解決のための突破口になります。その問いを見つける大きな力となるのが「妄想」であり、妄想実現課では研修プログラムを通してメンバー同士で妄想を育て合い、求心力のある問いにつなげていきたいと考えています。


研修プログラムの説明が終わり、最後は研修生とメンターの自己紹介の時間です。妄想実現課は誰もが安心して妄想を語れる場であり、メンバー同士の交流もとても大切にしています。初回はくじ引きで同じテーブルについた8名で、自己紹介シートに書いた自分のハッシュタグを紹介し合いながら仲間との出会いを楽しみました。掘り下げたくなるハッシュタグや思わず共感してしまうハッシュタグなど、あちこちのテーブルでさまざまなキーワードが飛び交い和やかな自己紹介の時間となりました。

研修プログラムの説明や自己紹介を終え、2週間後の次回ワークショップまでの課題が伝えられ、オリエンテーションは終了です。帰り支度をする会場では研修生たちの交流する姿が見られ、これから始まる妄想実現課の研修プログラムの可能性が感じられる初回となりました。