多様な豊かさとウェルビーイング(※)を実現する社会のあり方を考える地域共創プログラム「日野市妄想実現課(以下、「妄想実現課」)」。集まった23名の研修生たちが、デザイン思考を活用し、時間をかけて対話を重ね、誰もが自分らしくいられる地域コミュニティのための「解くべき問い」を考えました。2025年2月18日(火)に開催された最終発表会では、研修生たちが妄想実現課の活動に興味を示すたくさんの方に向け、自らつくり出した問いやそのプロセスを発表しました。

※ウェルビーイング…心身ともに健康であり、社会的にも経済的にも満たされた状態であること

個人の思いを共有できる参画の仕組みと問いをデザインするプロセス

妄想実現課の研修生は、これからの社会や地域の課題を担うことになる、高校生から29歳までの若者たちです。「妄想から始まる、多様な暮らしの創造」というスローガンのもと、一人ひとりの個人的な思い(=妄想)を共有しながら、地域の未来を思い描いてきました。最終発表会の冒頭では、妄想実現課課長の鈴木が、若者たちが個人的な思いを発散し、主体的に地域の未来に参画できる仕組みづくりとしての、プロジェクトの狙いを改めて説明しました。

2024年度の取り組みのゴールは、多様な暮らしを創造する「アクション」そのものではなく、アクションへとつながる求心力のある「問い」をつくること。研修生は、仲間やプログラムを通して伴走するメンターとの対話を重ね、それぞれの問いを生み出しました。同課長補佐の酒井は、10月のオリエンテーションから最終発表会までの、問いのデザインプロセスをふりかえり、対話や考察、自分の思いの言語化を繰り返した研修生たちの様子を紹介しました。

一人称の違和感を「みんなが解きたくなる問い」へ

地域共創へのアプローチとして、若い世代に焦点を当てた架空の部署の設置という、日野市で初めての試みとなった妄想実現課。最終発表会には、研修生に伴走してきたメンターやその取り組みに注目する一般の観覧者も多く参加したほか、コメンテーターとして大坪冬彦市長、多摩美術大学情報デザイン学科で講師を務める高見真平氏、日野自動車株式会社デザインセンターの関口裕治氏が、研修生たちの問いへのフィードバックを行いました。

最終発表の持ち時間は1人3分。研修生は自分の問いがどのように生まれたのか、その発端となった暮らしの中の違和感や、違和感を掘り下げることで見えた本当の課題などを発表しました。

ある研修生は、社会の中のルールと現実が噛み合っていない場面が多いと感じる違和感から、「同じ地域の中で色々な人が本当の意味で思いやるには」という問いを立てました。研修中のワークショップで違和感を共有し、対話を通して見えてきたのは、世代による価値観の違いや、少数派の逃げ道のなさなどであり、ルールづくりが課題解決に結びついていないのではないか、ということでした。“本当の意味で”思いやるための解決策を見出すことで、より豊かな暮らしのある地域につながる。そんな問いでした。

地域コミュニティや人とのつながり、また地域の魅力については、複数の研修生がテーマとし、それぞれの言葉で問いを表現しました。

「どうすれば、地域の空間が自分(たち)のものになる?」
「思わず寄り道したくなるような、みんなの知恵袋が集まる場所を作るには?」
「日野市をバズる街にするには?」
「30秒で日野を表すと?」
「あなたの地元と今いる場所との共通点はなんですか?」

出発点となる暮らしの中での違和感は人それぞれですが、誰もが“自分ごと”である体験や思いに端を発しています。その違和感を他者との対話を通して社会的な文脈へと落とし込み、みんなが解いてみたくなる問いへと変換していました。

違和感への理解を深めて得る新たな視点

地域や暮らしに焦点を当てたオリジナリティー溢れる問いや、研修生一人ひとりのたどってきた思考プロセスの発表には、コメンテーターの大坪市長と高見氏、関口氏からのフィードバックがありました。行政が取り組み続けてきた多世代コミュニティの醸成をテーマにした問いには、「地域に定着し持続していく場づくりの実行のヒントになるようなアイデアだった」と大坪市長。若い研修生たちの視点や思考のプロセスには、行政の職員や企業人、地域活動に取り組んできた市民の意識が刺激されるものがたくさんあり、研修生にとっても観覧者にとっても気づきの多い時間となっていました。

コメンテーターを務めた高見氏、大坪市長、関口氏(写真左から)

「『めんどくさい』を吹き飛ばす『やりたい』を見つければ、主体的に行動する人が増えるのでは?」という問いを立てた研修生には、自分を含め若い世代が受け身で生きていける環境にあると自覚する体験がありました。その状況に気づきそこから脱却するための問いとアイデアに対し、関口氏は小さなアクションを起こすことを提案。いろいろな「やりたいこと」に人が集まるコミュニティの創造につながる可能性を示唆しました。

高見氏もフィードバックの中で、問いをデザインしたプロセスをさらに紐解き、本当に解決したい課題をより表現し共感を呼ぶことのできる言葉の選び方や着眼点に触れました。コメンテーターからのフィードバックを受け、研修生たちがさらに自身の違和感や問いを見つめ直し、思考がブラッシュアップされるような対話がいくつも生まれた最終発表となりました。

妄想を実現するための次のステージに向けて

全ての発表を終え、研修生たちがデザインしたたくさんの問いが出揃い、ここまで対話と思考を重ねてきた研修生たちの熱意を、大坪市長が改めて讃えました。

「妄想実現課は日野市にとって本当にチャレンジングな試みでした。今年度はアイデアではなく問いに向き合うという大変難しい取り組みでしたが、たくさんの研修生が共感し参加してくれました。今日の最終発表では、プログラムを通じて研修生のみなさんが得た新しい視点や、すばらしい熱意を感じることができました」

そして来年度の取り組みについて、「妄想を実現するために共創を進めていきたい」と大坪市長。2025年度の妄想実現課の次なるステージを見据え、最終発表会は幕を閉じました。

会場には研修生たちの問いが掲示され、それぞれの問いに対するアクションのアイデアや共感のメッセージなどを、来場者や研修生がコメントし合いました。閉会後も来場者やメンターと研修生のコミュニケーションは続き、たくさんのアイデアとつながりが生み出されていました。