多様な豊かさとウェルビーイングを実現する社会のあり方を考える地域共創プログラム「日野市妄想実現課(以下、「妄想実現課」)」。暮らしの中の違和感から課題を見つけ、「みんなが解きたくなるような問い」をデザインした2024年度の活動を経て、今年度は3つのチームで問いを解決するアクションを生み出します。第2回目となった6月2日(月)のワークショップは、株式会社日建設計イノベーションデザインセンターの吉備友理恵氏をゲストに迎え、共創を可視化する「パーパスモデル」に挑戦しました。
“個”の想いに潜む公益性をどう引き出すか
2期目となる今年度の妄想実現課は、高校生から29歳以下の研修生のほか、日野市役所のさまざまな部署から若手職員が参画し、より多様な視点でアイデアを出し合いながらワークショップに取り組んでいます。妄想実現課課長補佐の酒井は、2期目の課のスローガン「公益的私欲を引き出す」を改めて宣言。妄想実現課の活動を通し、「地域における“個”の私欲的活動の中に潜む、暗黙的公益性の可能性に着目している」と説明しました。あくまでも個人の欲求を起点に、そこにある公益性をどう引き出していくかが今年度の活動の鍵となりそうです。
3つのチームのテーマは「プレイスメイキング」、「世代共生&セーフティネット」、そして「ふるさとブランディング」。出発点となった暮らしの中の違和感をもう一度掘り下げ課題を見直し、アイデアを出し合うなど、それぞれのチームで議論を進めています。
今回のワークショップのゲストである日建設計イノベーションデザインセンターの吉備友理恵氏は、企業の中で社内外をつなぐ役割を担いながら、共創やイノベーションを探究し続けています。中でも共創プラットフォーム「PYNT(ピント)」は、個人の想いを起点にしたプロジェクトであり、その基盤は建築や都市の専門性を超えた多様なつながりです。
著書『パーパスモデル 人を巻き込む共創のつくりかた』の執筆を始めた数年前と現在の社会の変化について、「“私たち”だけでは解決できない厄介な問題を、さまざまな立場や専門性を持った“みんな”で解決していく時代がきている」と吉備氏はいいました。
ステークホルダーを可視化しコミュニケーションツールにもなる設計図
吉備氏の考案したパーパスモデルは、多様なステークホルダーの活動における目的や役割を整理した「共創プロジェクトの設計図」です。その背景には、共創を生み出す際に多くの人がぶつかる2つの課題がありました。
「まずは、人と一緒にやることの負荷の高さです。なぜわざわざコミュニケーションコストをかけて大変なやり方をするのか、という考え方がありました。もうひとつは、最初は盛り上がって始まったけれど、実は互いの想いが共有できておらず、だんだんうまくいかなくなってしまうというケース。どちらもとてもよくある課題だったので、それを解決するためにつくったのがパーパスモデルです」
共通の大きな目的のために、誰がどんな役割で何のために関わるのか。パーパスモデルでプロジェクトに関わる人やその領域を視覚的に捉えると、現状を把握しさらに必要なアプローチやプロジェクトの可能性についての発想を広げることができます。吉備氏が紹介した事例「ミーツ・ザ・福祉」は、福祉をテーマに多様な人との出会いを生み出す尼崎市のイベントです。もともと行政主体で行なっていた事業運営を、民間事業者や市民主導型でリニューアルしたもので、当初はサービスの受益者だった障害を抱える人やその家族などもイベントの担い手として参画するようになりました。イベントの参加者はかつての4倍以上になっているといいます(※取材当時)。パーパスモデルを比較すると、関わる人の領域や役割が大きく変化しています。
「関わる人をステークホルダーごとに可視化してみると、プロジェクトの変化を比較することもできるし、コミュニケーションを取りたい相手に合わせてビジュアル化して、会話のきっかけにすることもできる」と吉備氏は紹介しました。
今後、妄想実現課でもチームごとにアイデアを一緒に実現させていく共創相手を考えるにあたり、パーパスモデルの構築が大きな手がかりとなりそうです。
共通の問いを真ん中に置いて。チームでつくるパーパスモデル
ワークショップでは、いきなり完成形の設計図をつくるのではなく、関わる可能性のある人を出し合い、関わってもらうためにどのようなコミュニケーションが必要かを考えることがこの日のゴールだと吉備氏。まずは自分たちの問いを真ん中に置いて、障壁となっている課題を改めて出し合いました。これまでの議論をふりかえりながら、スタートとなった違和感やそこから見つけてきた課題を見つめ直す各チーム。ワークショップが始まると、どのテーブルも吉備氏のアドバイスに耳を傾けながら手を動かし、メンバー同士で積極的に意見交換をする様子が見られました。
ワークの後半では、出し合った課題を解決するアイデアを考え、チームごとにプロジェクト案をつくりました。「3ヶ月後に実行できそうなプロジェクト」という吉備氏からのお題に、短時間で頭も手もたくさん動かしながら、メンバー同士でプロジェクトの方向性を共有。アイデアを整理し内容をまとめ、さらにそこに関わってほしいステークホルダーについても話し合いました。
具体性と新たな視点でまずは小さな一歩を
最後はチームごとに考えたプロジェクトの発表です。パーパスモデルを構築するプロセスを体験しつくり上げたプロジェクトは、「プレイスメイキング」、「世代共生&セーフティネット」、「ふるさとブランディング」というそれぞれのテーマに軸を置きつつ、研修生たちの試行錯誤やワクワク感が盛り込まれたものでした。
今回のワークを体験した研修生からは、「これまで議論があまり進んでいなかったのが、一気に流れ出したように方向性が決まった」、「スピード感や一緒に考える楽しさが共有できた」、「主体的に関わる人と価値を届けたい人を区別することで、選択肢が増えることに気づいた」などの感想が。個人としてもチームとしても、新たな視点や気づきを得た時間となっていたようです。
ワーク中、各チームのテーブルを回りながら、研修生たちのアイデアに耳を傾け、視点を掘り下げていった吉備氏。ワークと発表を次のように総括しました。
「みなさんに共通して伝えたのは、まずは一人ひとりがちょっとだけがんばったら実現できるサイズ感のプロジェクトを考えるということです。いきなり大きいことができるわけではないけれど、小さい一歩なら踏み出せるかもしれない。準備期間を3ヶ月くらいで考えると、やってみて何か違うと感じたら、もう一回新しいアイアデアでやってみようと思えます。次は誰をどうやって巻き込んでいくか、楽しみながら実現できる雰囲気をつくっていってほしいです」
パーパスモデルの考え方を知り、ワークを体験し、これまでよりも具体的にプロジェクトや関わる人がイメージできるようになった研修生たち。ここからさらにチームで議論を深め、内容のブラッシュアップや仲間となるステークホルダーへのアプローチなど、それぞれのプロジェクトを形にしていきます。