それぞれの多様性を認め合い、互いのウェルビーイングを実現する社会のあり方を考える地域共創プログラム「日野市妄想実現課(以下、「妄想実現課」)」。第2期となった2025年度は、高校生から29歳までの研修生が、チームごとにまちの未来に向けたプロジェクトを立ち上げ実証実験を進めてきました。ここまでの活動を経て、出発点となった個人の思いや解くべき問いは、どのように形になったのか。地域の見え方や距離感は変わったのか。最終報告会では、研修生たちがそれぞれの活動やその成果を自分たちの言葉で語りました。

公益的私欲を引き出した第2期の活動

暮らしの中で抱える個人の思い(=妄想)を起点に問いを立て、その問いを解くべきアイデアをみんなで考え地域で実現させていく妄想実現課の活動。それは若者が個人的な思いを表現できる、主体的に地域の未来に参画できる、そんな社会の仕組みづくりでもあります。3つのチームは研修生を中心に、地域で活動するメンターや市のさまざまな部署の有志職員が集まり、プロジェクトの立ち上げや実証実験に取り組んできました。多様な視点からのアイデア、プロジェクトに必要な資源の調達、協力してくれる地域の人とのネットワークづくりなど、個人の思いだけでは乗り越えられない壁を、たくさんの人と関わりながら越えてきた研修生たち。その過程では、自分たちの個人的な思いが公共へと染み出し、地域の風景を変える場面もつくり出しました。

Cチームがイオンモール多摩平の森で集めた地域の人の声(2025年9月)
Aチームが実証実験で使った展示ボックス

2026年2月24日(火)に日野市多摩平の森産業連携センター「PlanT」で行われた最終報告会。会場には妄想実現課に関わったメンターや日野市職員のほか、クラウドファンディングの支援者や活動に協力してくれた地域の方などの姿も。またゲストとして日野市の古賀壮志市長と日野自動車デザインセンター所長の高山仁志氏が、研修生たちの取り組みにフィードバックを行いました。

「ゆるいつながり」は一瞬の関与の積み重ね

地域や人とゆるくつながるきっかけづくりの実証実験を行ったAチームは、14人が参加した小さな展示ボックスと、通りかかる人、展示に滞在する人の反応の調査について報告しました。

「まちかどに“ちいさな私の部屋”をひらく。通りすがりと、ゆるくつながるしかけづくり。」として、イオンモール多摩平の森に2週間展示された、趣味や活動の紹介などが入ったボックス。施設の利用者がどれくらい展示を目にしてくれるのか。どれくらいの人が立ち止まるのか、そこでどんなアクションが起こるのか。Aチームでは平日と休日に滞留調査を行い、「ゆるいつながりがどれくらい生まれたか」「場の意味が変化したか」を考察しました。

想定していた以上に展示に目を留め、会話をする、投票用紙に記入するなどのアクションを起こす人がいた一方で、一瞬だけ足を止めた人も多かったという調査結果から、「『ゆるいつながり』は、持続的な関係ではなく、通りすがりくらい一瞬の関与の積み重ねなのでは」と研修生たちは考えました。それが次第に自分たちが考えていた「ゆるいつながり」になっていく。そんな考察にたどり着いたAチーム。
また可視化できていない「関与の質の変化」や、ゆるいつながりの先にある地域への関わりの動線など、次の段階の社会実験への課題感も会場に共有しました。

実証実験を終えた研修生たちからは、「予想以上にたくさんの人にアクションしてもらい、地域活動への関心の高さを知ることができた」「興味を持ってくれた人とつながりたいと思った」「漠然としていた『ゆるいつながり』を可視化できた」「自分自身がもっと地域のことを知りたくなった」などの変化や感想が語られました。

▼Aチームの活動紹介ページはこちら
https://hino-moso.jp/magazine/post-09/

小さなコミュニティだから得られるつながりと安心感

Bチームはあらゆる世代にとってセーフティーネットとなるコミュニティづくりに取り組み、多様な人が参加する「ごはん会」の開催と、ネットワークの可視化を実証実験として実施しました。

2025年10月から2026年1月にかけて3回開催したごはん会は、チームメンバーやメンターなど、仲間内の紹介で参加者を募り、小さな輪からつながりを広げていきました。思うように参加者を集められなかったというごはん会ですが、それでも学生や福祉関係者、地域活動を実践している人、子ども連れの家族などが参加し、回を追うごとに立場や世代を超えたごはん会になっていきました。

ごはん会は地域の課題を解決するためのものではなく、気軽に地域のことや自分の活動などを言葉にできる場です。少人数だからこそ安心して話ができ、それぞれの知見や視点を共有する場になっていたと研修生たちは感じていました。またごはん会の開催にあたっては、普段からの地域のつながりの大切さを感じたと同時に、自分たちが想定していた地域の中のつながりよりも、その手前にある「人と会う場」「一緒にごはんを食べる場」が求められているとも考察。今後の継続開催の可能性についても話しました。

Bチームが実証実験前に試作した「みんなの得意」をつなげるボード

ネットワークの可視化については、3回のごはん会で参加者の得意分野などの情報をリストとして収集したBチーム。ここまでの仕組みづくりを振り返り、ごはん会のテーマ設定や参加者へのアプローチ方法など、見直すべき点を挙げながらも、実際につくった場でのリアルな人との出会いや関わりに手応えを感じているようでした。

▼Bチームの活動紹介ページはこちら
https://hino-moso.jp/magazine/post-11/

プロジェクトを通して見つけた自分のまちの魅力

自分のまちに興味を持ち好きになる人を増やしたい。そんな思いで日野市の魅力を見つける「日野市バズらせ王決定戦」を開催したCチーム。実証実験ではSNSと日野市役所での投票箱でアイデアを募集し、滝合小学校では6年生に向けプロジェクトを説明。チームからの情報発信や企画の周知に課題が残ったものの、50名を超える多世代の方からさまざまなアイデアが集まりました。

集まったアイデアは、市内の名所やイベント企画、SNSプロモーション案など幅広く、日野市のブランディングを考えるうえで、本質的な市民の視点になり得ると、Cチームでは考察しています。またSNSを使った参加型の実証実験を経て、地域の人と共創しプロモーションを展開することで、日野市内外のファン獲得や持続的な情報発信の強化にもつなげられるとの展望を示しました。

もともと研修生自身が日野市のことをあまり知らなかったというCチーム。プロジェクトを進める中で、イオンモール多摩平の森や日野市産業まつりでのPR活動、滝合小学校への訪問など、それまで訪れたことのなかったエリアやイベントに足を踏み入れ、さまざまな領域の人と出会いました。日野市をバズらせるようなアイデアが果たして出るのか、と不安を抱えながら開催した「日野市バズらせ王決定戦」では、集まったたくさんのアイデアから知らなかった日野市のことを知り、研修生自身が自分のまちである日野市の魅力を再発見していったといいます。アイデアを考える中で日野市を好きになる人を増やしたいという「日野市バズらせ王決定戦」は、実証実験の一連のプロセスを経て、その狙いが的外れではなかったことを、研修生たちが体現しているようでした。

▼Cチームの活動紹介ページはこちら
https://hino-moso.jp/magazine/post-10/

妄想実現課を経て自分のまちをどう語れるようになったのか

全てのチームの報告に、気づきや共感、新たなアイデアなどのフィードバックを残したゲストの古賀市長と高山氏。若い世代が捉える地域の課題や課題へのアプローチは、企業や行政にとっても興味深く、若い力に希望を感じることのできるものだったようです。

日野市が職場でもあり生活圏でもあるという日野自動車の高山氏は、研修生たちの活動報告を聞き「日野で働き、日野に住んでいて良かったと改めて思った」とコメント。
「こういった取り組みに若い方たちが参加し、しっかりそのストーリーや成果を発表してくださったことがとても素晴らしいと思いました。社会が縮小していく中で地域の課題が複雑化し、ここからどうやって豊かな地域にしていくかというと、研修生のみなさんがこの活動で考えたように、一人ひとりができることをうまく持ち寄ってやっていくこと。それが大きな答えの一つなのではないかなと思いました。この活動が次のエネルギーにつながっていくことを期待しています」

3チームの発表に丁寧にフィードバックしてくださった日野自動車デザインセンター所長の高山仁志氏

また日野市にとっても新たなチャレンジとなった妄想実現課という事業を見守ってきた古賀市長も、研修生たちの瑞々しい発想に刺激を得ていました。
「若い人たちが集まって、自分たちのまちのことを考え志を一つにして取り組んだことは、非常に価値のあることだったと思います。今回の取り組みの通り、出発点は1人の思い。そこからスタートしていくものだと思いますが、それを形にしていくには、やっぱりチームをつくらないといけない。1人ではなかなか進んでいかないものを、チームになって実現し成果報告というところまでたどり着いたということが、これもまた大きな成果です。これからも新しい日野のために、ヒントや知恵を授けてくれればありがたいです」

若い研修生たちへの期待を話す古賀壮志市長

研修生一人ひとりの思いを起点に、3つのプロジェクトが生み出された2025年度の妄想実現課。3チームの実証実験に使われた費用は、昨年実施したクラウドファンディングで募った支援金でした。それぞれのチームの最終報告では、寄付者のみなさまから託された支援金について、プロジェクトの実施にあたり予算やその使い道をチームごとに検討し、活動のあらゆる場面で大切に運用してきたことが報告されました。

「私たちは日野をどう語れるようになったのか?」。
成果報告を終えた研修生たちに、最後にこんな問いが投げかけられました。人のつながりや地域の情報など、実証実験を経てこれまで見えていなかった地域の景色が見えるようになった研修生たち。改めて妄想実現課の活動を振り返り、今後どのようにまちと関わっていくのか楽しみです。